ESJ56 一般講演(ポスター発表) PC1-381
*鮫島由佳,椿宜高(京大・生態学研究センター)
同所的な近縁種のハビタット分割は、種の多様性を支えるメカニズムのひとつである。しかし現在見られるハビタット分割が、各種が個別に適応した結果なのか種間競争の結果なのかはよく分らないことが多い。
カワトンボ属は低地林の川や渓流に生息するトンボであり、同一の川に近縁な2種が生息する。これまでの報告ではMnais costalisが比較的下流に、Mnais pruinosaが上流にいるとされているが、その同一河川でのハビタット分割を引き起こす要因は明らかでない。近縁種間のハビタットの分割についてはエサ資源の分布に関係した例がよく知られている。しかしカワトンボ属にはエサの違いはなく、エサ以外の要因が働いていると考えられる。そこで我々はハビタット分割の要因として、成虫のなわばりの日照環境に注目した。河川の上流部と下流部では、林冠の状態によってなわばり場所の日照環境が大きく異なる場合が多いからである。日照環境は植物のみならず、昆虫など外温性動物のエネルギー獲得にとっても重要な因子であるが、種間のハビタット分割との関係はあまり調べられていない。
本研究では5月から6月の成虫期間、野外においてM. costalisとM. pruinosaのなわばりの日照環境を全天写真を用いて定量評価した。またこの期間中、調査場所での個体数の推移と個体ごとの移動を記録した。その結果、M. costalisはなわばりとして比較的明るい環境を利用し、M. pruinosaは暗い環境を利用することが示された。これらの結果をもとに、日照を利用した体温調節と種間干渉が近縁種のハビタット分割を引き起こす可能性について議論する。