ESJ56 一般講演(ポスター発表) PC1-383
*中島 貴幸,市川 志野,片野田 裕亮(鹿児島大・理工研),浅見 崇比呂(信州大・理),冨山 清升(鹿児島大・理)
陸貝は,その分散能力の低さゆえ個体群間の遺伝子交流が極めて少なく,殻の形態や解剖学的特徴,タンパク質多型などの地理的変異があることはよく知られており,生物地理や適応放散の研究において有益な情報を提供してくれる.最近ではmtDNAを用いた種内・種間変異の研究が様々な属で報告され,進化学的プロセスを研究する上でも重要なモデル生物として期待されている.
佐多岬(鹿児島県)以南,薩南諸島に広く分布するチャイロマイマイPhaeohelix submandarina (オナジマイマイ科)には,地理的変異が島嶼間で顕著に見られる.湊(1978)により生殖器を用いた近縁種(ミヤケチャイロマイマイP. miyakejimana, タメトモマイマイP. phaeogramma,パンダナマイマイBradybaena circulus)との比較検討が行われたが,島嶼間の変異は考慮されておらず,分類学的混乱が解決したとは言い切れない.さらに薩南諸島に属するトカラ列島は,動物区界の東洋区と旧北区の境界をなす点で生物地理学上重要であり,本種の種内変異を把握し,様々なアプローチから体系的に議論することには大変意義があると考える.
今回我々は,薩南諸島各地から得られたサンプルのmtDNA-CO1領域(約700bp)の塩基配列解析を行い,CO1ハプロタイプの地理的分布を殻・生殖器の形態解析の結果と比較した.形態変異の内に潜む多様な遺伝的構造と島嶼群の地史との関係,そして分類学的諸問題に触れ,いくつかの興味深い結果が得られたので報告する.