ESJ56 一般講演(ポスター発表) PC1-394
*田中美希子,田中洋之,平井啓久(京大・霊長研)
マダガスカル南部のベレンティ保護区では,1970年代と1980年代に染色体数の異なるチャイロキツネザル2種(Eulemur fulvus rufus: 2n=60 と Eulemur collaris: 2n=52)が少数個体で導入され,以後,個体群が急速に成長した.このベレンティのチャイロキツネザル(Berenty Eulemur)個体群について,これまでの核型(染色体の数と形態)とマイクロサテライトDNA 10遺伝子座の調査から,雑種第1代形成後,両種への戻し交配が起こったこと,遺伝的多様性が他の自然生息地のキツネザルと同程度に保たれていることをあきらかにした.本研究では,この雑種個体群の遺伝構造を詳細に調査するため,mtDNA D-loop領域の塩基配列(396 - 398bp)と,マイクロサテライトDNA 12遺伝子座の分析結果を報告する.Berenty Eulemur 81個体,非雑種のE. fulvus rufus 11個体および E. collaris 7個体を分析した.D-loopの塩基配列は Berenty Eulemurで6タイプ,E. f. rufusで2タイプ,E. collarisで1タイプ見つかった.GenBankに登録された他地域同種および近縁種の配列を加えて系統分析をおこなったところ,ベレンティ個体群の設立には少なくとも5頭のE. f. rufusと1頭のE. collarisのメスが関与していることがわかった.マイクロサテライトDNAの分析では,Berenty Eulemurにおいて1遺伝子座あたり4 - 13個の対立遺伝子が見つかり,純粋な 2種を区別する対立遺伝子もみとめられた.現在の個体群には様々な雑種度の個体が存在することがわかった.これまでの分析結果とあわせて,ベレンティ個体群の遺伝構造について考察する.