ESJ56 一般講演(ポスター発表) PC1-399
*堀部直人(東大・総合文化),嶋田正和(東大・総合文化)
植物や被食者の空間分布からしばしばフラクタルが見いだされる。フラクタル性が認められる要因として従来アリー効果など植物や被食者側の自己組織化が主に論じられてきた。しかし、生物の個体数や分布を決める要因としてボトムアップ効果だけを考えるのは不十分である。そこで本研究ではトップダウンの効果を考慮し、対捕食者戦略としての分布のフラクタル性について議論する。
捕食者側の餌探索戦略については、Levy flightとよばれるフラクタル性を有する確率過程に従って移動することが、餌がランダムかつ少量存在する場合の最適採餌戦略であるとシミュレーションにより確認されている。実際、野外あるいは室内実験系において、昆虫・ほ乳類・魚類といった多岐にわたる分類群でLevy flightが観測されている。
我々はシミュレーションモデル上でLevy flightによる餌探索を行う捕食者を作成し、被食者の分布がランダムである環境とフラクタル性を有する環境において採餌効率を測定、比較した。その結果被食者の分布にフラクタル性がみられる場合、(i)ランダムに分散した場合に比べてより多くの個体が捕食されてしまうこと、(ii)しかしながら、同時に捕食者の餌獲得量の中央値を著しく低下させることが明らかになった。この結果は捕食者が他の餌探索戦略をとるときにも成立した。ここで被食者はより多く喰われることと引き替えに、一部の捕食者が大量の餌を獲得する一方大部分の捕食者が餌をほとんど得ることができないように仕向けるというスパイト行動を行っているようにみえる。しかし、被食者が自己組織化によってのみ分布にフラクタル性を持つ場合であっても上述のシミュレーション結果は得られる。そこでスパイト行動という文脈だけから被食者側のフラクタル性を有する分散戦略が進化的に獲得されうるかを最後に議論する。