ESJ56 一般講演(ポスター発表) PC1-403
*宮崎佑介, 角谷 拓, 鷲谷いづみ(東大院・農)
伝統的な管理によって維持されてきた水田・用排水路・ため池は、相互に連結して生態系ネットワーク(水田水域ネットワーク)を形成し魚類をはじめとする多様な水生生物の生育・生息場所として機能してきた。
本研究では、このような水田水域ネットワークの保全および再生の指標となり得る魚類の生息に、連結性やその他の要因が及ぼす影響を分析した。
現在でも伝統的な土地利用が残る岩手県南部の田園地帯を対象に、河川および81箇所のため池において、2007年9月と2008年5〜10月の採集調査によって魚類の在・不在を種ごとに記録した。魚類の生息に影響を及ぼすと考えられる要因として、ため池と水路、水路と河川およびため池間それぞれの連結性、標高、ため池の面積、人為放流の有無を測定・記録した。魚類は保全生態学的な視点からグループ1(環境省・岩手県RL双方でVU以上に掲載;シナイモツゴとメダカ南日本集団)、グループ2(グループ1以外の環境省・岩手県RL掲載種;キンブナとギバチ)、グループ3(それ以外の在来種;ドジョウなど)、グループ4(外来種)に分類し、グループの有無と諸要因との関係を、一般化線形モデルを用いて分析した。
調査範囲内の河川では15種、ため池では10種の魚類が記録され、そのうちの河川とため池の両方で記録された種は7種であった。グループ1はため池と水路およびため池間の連結性が高いため池に、グループ2は人為放流が有り、面積が大きいため池に、グループ3はため池と水路との連結性が高く、人為放流が無いため池において、それぞれ出現確率が高かった。グループ4は当然のことながら人為放流が正の効果を示したが、他の要因の効果は認められなかった。この結果は既存の知見とも矛盾がなく、ため池と河川を結ぶ水路の質がシナイモツゴやメダカ南日本集団など保全上重要な魚種の生息に影響を及ぼしていることが示唆された。