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ESJ56 一般講演(ポスター発表) PC1-405

コウイカ類の形態における左右非対称性とその比率の動態

*平尾隆,堀道雄(京大・理)


タンガニイカ湖に生息している鱗食魚の頭部形態には‘左右性’と呼ばれる遺伝する種内二型が存在し,型の比率が動的に維持されている.さらに魚類との捕食-被食関係を通じて甲殻類も左右性を持つことがわかってきており,海洋で魚類や甲殻類と捕食-被食関係にある頭足類も左右性を持っている可能性があると予想した.そこで,頭足類であるコウイカ類の甲に見られる左右どちらかへの曲がりが魚類の左右性と同質のものであるかどうか検討するために,フィリピンのビザヤ海にてアジアコウイカSepia recurvirostraを3ヶ月ごとに7年間採集し,各時期100個体の甲の形態計測を行い,個体群中の左右性の長期的な変化を観察した.また日本産で同属のカミナリイカS. lycidasを用いて交配実験を行い,甲の曲がりが遺伝するかどうか調べた.

アジアコウイカについて甲の曲がりの角度をデジタル顕微鏡で計測したところ,その計測値の頻度分布は明らかに二山型となり,個体群は甲が左に向かって曲がる‘右型’個体と,右に向かって曲がる‘左型’個体によって構成されていることが明らかになった.採集時期ごとに右型個体の比率を求めてその変動を時系列解析すると,周期約2年で振動していた.またカミナリイカを用いた交配実験の結果,親が右型同士,左型同士の場合は親と同じ型の子が多く生まれる傾向があったが,データの少なさから遺伝様式は解明できなかった.

本研究によって,コウイカ類の甲に見られる左右非対称性は魚類と同じ反対称性であることが明らかになった.遺伝様式については,魚類のような一遺伝子座上の二対立遺伝子によるメンデル遺伝とは異なることが示唆された.コウイカ類でも種内二型としての左右性が,捕食-被食関係を介した頻度依存選択によって動的に維持されていると考えられる.


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