ESJ56 一般講演(ポスター発表) PC1-417
*山下英恵(東大院・農学生命),桐谷圭治(伊東市),富樫一巳(東大院・農学生命)
動物の個体群密度は,同種の個体間の関係,食物量,天敵および非生物的環境の違いによって異なる。さらに,生息場所の管理方法の違いはその中の個体群の繁殖,生存,移入,移出に関係すると考えられる。後翅が退化したルイスオサムシは森林性で移動能力が低く,局地的に分布している。このため,開発などによる生息場所の分断化はこの種の個体群の絶滅を引き起こす可能性がある。そこで,管理方法の異なる2つの林地で成虫の発生消長,繁殖状況,幼虫期の餌量,成虫の天敵の調査を行い,ルイスオサムシの個体群密度決定の過程を検討した。調査は,静岡県伊東市の雑木林AとBで行った。雑木林Aでは枝打ちや落ち葉かきなどの人為的管理が行われていたが,雑木林Bでは人為的管理が行われていなかった。各雑木林での相対密度は3年間で大きな変化は無く,雑木林Aでは常にBよりも高い傾向が見られた。体サイズに及ぼす餌量の影響が考えられたため,成虫の体長を測定したが,違いは見られなかった。そこで蔵卵数を調べた結果,雑木林Bの雌はAの雌よりも蔵卵数が多かった。オサムシの餌量の違いを調べるため,2つの林のミミズの個体数と乾燥重量を相対餌量として比較した。その結果,雑木林AよりBの方が2倍以上高かった。死亡要因を検討するため,ルイスオサムシ成虫(n=443)を解剖した結果,寄生性昆虫(双翅目と膜翅目)が体内に見られたが,寄生率は1 %以下であった。さらに成虫の体表面に付着したダニ数と雌成虫の成熟蔵卵数との関係を調べた結果,ダニ付着数は蔵卵数と無関係であった。2つの林の個体群密度は,密度レベルは異なるが共に安定しており,移出は密度独立的である可能性があった。天敵によって密度レベルが決定されている可能性は低かった。また,産卵(蔵卵数)には成虫密度と相対餌量が関与している可能性が考えられた。