ESJ56 一般講演(ポスター発表) PC1-420
井出純哉(京大院・農・昆虫生態)
竹笹類は数十年に一度広域に渡って同調して開花・結実して枯死する。竹笹類を専門に食べている動物は一斉枯死によって餌を失い、その個体群は崩壊すると思われる。しかし、竹笹類の一斉枯死後の竹笹専食動物の個体群動態についてはパンダ以外全く研究が行われていない。
2004年から2006年にかけて京都府南部一帯でチュウゴクザサが一斉に枯死した。この笹を幼虫の主要な餌としている蝶のクロヒカゲ及び同属のヒカゲチョウ(枯死していないネザサを餌としていると思われる)について、笹枯死以後(2008年)に個体数がどのように変化したかを明らかにするために、笹枯死以前(1998-2000年)に調査した場所で再調査を行った。
クロヒカゲは笹枯死以後に激減し、個体群はほぼ崩壊していた。一方、ヒカゲチョウは3-4倍に増加していた。この二種の蝶は明るさによって微生息場所を棲み分けており、ヒカゲチョウの方がやや明るい場所にいる傾向がある。逆に、雄の配偶縄張はクロヒカゲの方が明るい場所に張る傾向がある。笹枯死以後にヒカゲチョウの利用空間の照度を測定した所、普段の生息場所は以前と比べあまり変化が無かったが、縄張の場所は暗い場所に移っていた。笹枯死以後のヒカゲチョウの縄張の場所は笹枯死以前はクロヒカゲがよく利用していた空間であり、縄張を張るとクロヒカゲがどんどん侵入して来て追飛に非常なコストを要したと思われる。笹枯死以前にヒカゲチョウがやや明るい場所に縄張を張っていたのは、クロヒカゲの少ない空間を利用することでこのコストを避けるためだったと考えられた。笹の枯死後にはクロヒカゲが激減して縄張への侵入がなくなったので、ヒカゲチョウは好きな場所に縄張を移したと考えられる。また、縄張での配偶を妨害されることがなくなったことで個体数も増加したのだと考えられる。