ESJ56 一般講演(ポスター発表) PC1-421
*倉地耕平, 大串隆之(京大・生態研)
Plant-vigor hypothesis (Price,1991)は、生長のよい植物個体や部位ほど窒素含量が高いため、植食性昆虫の幼虫にとって成長や生存に有利であることを理由に、生長のよい植物個体や部位に対する親の産卵選好性を予測している。このため、長いシュートや植物個体で植食性昆虫の密度が高くなると期待される。これまでこの予測に対する検証が数多く行われてきたが、この予測を支持するものも支持しないものもあり、未だに決着を見るに至っていない。予測が支持されない理由の一つとして、寄生蜂などの天敵の影響により生長の早い植物個体や部位での幼虫のパフォーマンスが必ずしも高くないことが、挙げられている。
本研究ではヤナギの当年枝にゴールを形成するヤナギマルタマバエを用いて、ヤナギ個体のシュート長とゴール密度との関係を、関西周辺の6地点(手取川、九頭竜川、安曇川、長良川、琵琶湖、木津川)で調査した。木津川ではシュートの長いヤナギほどゴール密度が高い傾向があったが、他の調査地ではそのような傾向がみられなかった。このように、両者の関係は調査地によって異なっており、その原因を確かめるためにシュート長と幼虫の死亡要因の関係を調査した。ヤナギマルタマバエ幼虫の主な死亡要因は落枝と寄生蜂であり、それぞれシュートの長さとの関係を調べた。落枝とシュート長の関係については、すべての調査地で、長いシュートほど落枝しにくかった。一方、主要な寄生Platigaster urnicolaの密度は調査地間で異なり、木津川ではP. urnicolaはみられなかった。また、長良川ではシュートの長いヤナギほどP. urnicolaによる寄生率が高かったが、他の調査地では両者の間に有意な関係はみられなかった。これらの結果から、ヤナギマルタマバエのヤナギ個体間での分布パタンに対する寄生蜂の影響を議論する。