ESJ56 一般講演(ポスター発表) PC2-747
*馬場成実,上野高敏(九大院・生防研)
チャバネアオカメムシの卵寄生蜂チャバネクロタマゴバチの雌は寄主卵塊に長時間滞在し、同種他個体を積極的に排除する。そのため、他の雌個体による重複産卵が起こりにくく次世代の同系交配が一般的であり、子の性比はLMCモデルに従って著しく雌に偏る。一方、本種の雄も攻撃的で、野外でも雄間闘争の様子が観察される。室内外での観察では、単一雌による産卵の場合でも複数の雄が出現し、兄弟間で激しい闘争が生じることと敗者雄が出生卵塊を去ることが確認される。本種の雌は1回交尾とされている。それでは、敗者雄には交尾機会はあるのだろうか。または、雌親が複数雄を産出することは雄蜂の交尾頻度にどのように影響するのだろうか。これらについて明らかにすべく、本種の雄間闘争および分散雄のその後の行動について詳細に調査した。
闘争に負けた雄を、他の先住雄が滞在し雌の羽化を待っている卵塊に導入すると、敗者雄はそこに定位し、先住雄と闘争して53%が寄主卵塊を乗っ取ることができた。未交尾のまま出生地を離れた雄を、1)雌親の産卵直後の卵塊、2)雌親の産卵後5日経った卵塊、3)産卵後10日目で蜂の羽化直前の卵塊、4)未寄生卵塊をおいた空間に導入したところ、雄蜂の定位頻度および定着率は3)で最も高く、雌蜂の羽化が近い卵塊を選択できることが示された。闘争経験雄の寿命は絶食下で約6日、蜜供与下で約17日と長いことからも(25℃・16L8D)、分散後に他のクラッチを探索することは十分可能と考えられる。これらより、未交尾の敗者雄にも他クラッチの雌との交尾機会があり、我々が予想する以上に異系交配が起こる頻度が高いことが強く示唆された。今後、闘争による雄の分散が兄弟姉妹間での交配の頻度に与える影響などを詳しく調べることによって、これまで同系交配が一般的とされてきた寄生蜂のLMCにおける性比決定上の新たな側面を提案できるかもしれない。