ESJ56 一般講演(ポスター発表) PC2-758
松井彰子(京都大・理)
多くの脊椎動物の様々な行動に左右性があることが知られており、主に脳機能の左右分化の側面から研究され、その対応関係が解明されてきた。一方、タンガニーカ湖の鱗食魚で捕食行動の左右性と開口方向の反対称性との相関が発見されたことを端緒として、行動の左右性と形態の反対称性の対応が主張されるようになった。しかしながら、その対応を実証した研究は非常に少なく、扱っている行動の種類も対象魚種も限られている。そこで本研究では、行動の左右性と形態の反対称性との相関の普遍性を調べるため、カダヤシ科魚類の一種を用い、迂回行動と瞬発行動fast-startの二つの行動を取り上げ、各個体の行動の左右性を調べた後、形態の左右性の指標である頭骨と脊椎骨のなす角度を計測し、その対応を検討した。本研究で扱った二つの行動は脳機能への依存度が異なり、左右性に関して異なる遺伝的基盤を持つと考えられている。結果は、二つの行動と、角度の頻度分布はいずれも二山分布を示した。また、fast-startと形態との関係としては、主に右方向に逃避する個体は頭部が左に傾いている「右利き」個体であり、反対に主に左方向に逃避する個体は「左利き」である傾向が見られた。一方で、迂回行動と形態との間では顕著ではないものの、fast-startとは逆の傾向、すなわち、右迂回のものは「左利き」、左迂回のものは「右利き」である傾向が見られた。さらに、fast-startの頻度分布では性別にかかわらず顕著な二山分布が見られたが、迂回行動では雄でより顕著であった。これらの結果から、カダヤシ科魚類においては、相関の強さに差はあるものの、いずれの行動の左右性にも形態の反対称性が関わっていることが示唆された。相関の強さに差が見られた理由として、反射的な行動には形態の反対称性が、高度な認知を要する行動には脳機能の左右性が相対的に強く関連している可能性がある。