ESJ56 一般講演(ポスター発表) PC2-764
*中山慧, 宮竹貴久
擬死行動は対捕食者行動とされ、主に複数の昆虫種で捕食回避における適応性が示されている。コクヌストモドキ Tribolium castaneumは外部刺激に対して擬死行動を示し、ハエトリグモに対して有効な捕食回避性が示されている。今回は、別の捕食者であるコメグラサシガメ Amphibolus venatorに対してもこの行動が有効か検証した。両種は沖縄の貯穀場では同所的に存在しており、その場所でのT. castaneum個体群は捕食圧に晒されていない (実験室内飼育) 個体群に比べて擬死頻度及び継続時間がそれぞれ有意に高く、長いことを我々は確認した。そこで、T. castaneumにおいて擬死時間に対する人為分断選択実験によって作出された擬死頻度が低く時間が短いショート (S) 系統と擬死頻度が高く時間の長いロング (L) 系統 の個体を使って、上記の現象がA. venatorのT. castaneumの擬死行動に対する捕食圧によって引き起こされたという可能性について検討した。実験の結果、L系統の個体の生存率はS系統に比べて有意に高かったが、A. venator は攻撃を受けた際に擬死をしたかどうかは関係なく捕食を行っており、L系統の個体では実験開始から攻撃を受けるまでの時間が長いことが確認された。先行研究より、L系統はS系統に比べて活動性が低いことが明らかとなっている。つまり、活動性の低いL系統に比べ、活動性が高く捕食者の注意を引きやすいS系統の個体はより攻撃を受けやすいため死亡率が高いことが判明した。以上のことから、本種の沖縄個体群における強い擬死行動の傾向はこの行動そのものに対する直接選択の結果ではなく、個体の活動性レベルにかかる捕食者による直接的な選択圧に対する相関反応によって維持されている可能性がある。この可能性の実証にはさらなる集団を用いた実験が必要である。