ESJ56 一般講演(ポスター発表) PC2-768
*松田尚子,坂本信介,鈴木惟司(首都大・理工)
被食者の対捕食者行動と採餌行動の間には、トレードオフが生じている。被食者は、捕食リスクを間接的、直接的に示すような様々な手掛かりを用いて捕食リスクを評価し、それに応じて採餌行動を変化させると考えられている。本研究では、アカネズミがどのような手掛かりを用いて捕食リスクを評価し、どのように採餌行動を変化させるのかを、野外実験および室内実験を通して検討した。
野外実験では、捕食リスクを示す間接的な手掛かり(微生息環境の被度、月齢)および直接的な手掛かり(捕食者の匂い)による、採餌量の変化を調べた。捕食者の匂いには、調査地内でアカネズミと同所的に見られる捕食者であるネコのフンを用いた。野外実験の結果、アカネズミは微生息環境の被度に応じて採餌量を変化させたが、月齢および捕食者の匂いには反応を示さなかった。
室内実験では捕食者の匂いの効果に着目し、一晩を通じてアカネズミの行動を観察、解析することで、匂いの存在によって一晩の行動がどのように変化するのかを検討した。室内実験の結果、捕食者の匂いを提示したことによる、採餌量や採餌ケージへの訪問回数には変化が見られなかった。一方で、捕食者の匂いを提示した採餌ケージでの累積滞在時間の増加や、匂い源への直接接触が観察されるなど、捕食者の匂いに積極的に近づいていくような行動が観察された。この行動は、捕食者の匂いに対するリスク評価行動である可能性も考えられるが、匂い源への積極的な接近が対捕食者行動なのか、あるいは未知の匂いや不快な匂いに対する反応なのかは今のところ判断できない。
今回の研究では、アカネズミにとっては、その場所の捕食リスクを示すような、微生息環境の被度という間接的な手掛かりのほうが、ある捕食者の存在を示すフンの匂いという直接的な手掛かりよりも、有効であることが示唆された。