ESJ56 一般講演(ポスター発表) PC2-769
*武智玲奈, 林 文男(首都大・生命)
アカネズミは種子や昆虫類など様々な餌資源を利用する。採食が困難である餌に対しては、経験や訓練によって複雑な採食行動を獲得する必要があると考えられる。アカネズミは飼育下での観察が容易であり、堅い殻に包まれたオニグルミの種子を効率良く採食するためには、過去の経験が重要であることが明らかとなっている。オニグルミの種子と同様に、アカマツやクロマツのようなマツ類の球果も大型の餌の一つである。果軸にそって螺旋状に堅固な鱗片がつき、栄養価に富む種子を包んでいる。こうした複雑な構造のため、この種子を採食するには経験が必要ではないかと考えられた。そこで本研究では、アカネズミが、大型のマツ類の球果を餌として利用するのかどうか、利用するのであれば種子をどのように採食するのか、採食には経験が必要であるのかどうかの3点について検討した。野外で捕獲したアカネズミにアカマツの球果を与え、飼育下で採食行動を5日間連続して観察した。その結果、伊豆諸島三宅島のクロマツが混成する地域で捕獲したアカネズミでは約8割の個体が球果を採食したのに対し、三宅島や静岡県掛川のマツ類を欠く地域で捕獲したアカネズミではほとんどの個体が球果を採食できなかった。マツ類が自生する地域のアカネズミは、その球果を実際に餌として利用しており、その経験から与えたアカマツ球果をすぐに採食できたのだろうと推察された。採食方法は、球果を上から押さえつけ、基部側から鱗片を削り取り、順次、中の種子を採食していく。球果の構造から、効率的に種子を食べるためには、基部側から鱗片を取り除くことが重要であると考えられた。経験に基づく学習機構について今後調べていく必要がある。