ESJ56 一般講演(ポスター発表) PC2-788
高橋大輔(長野大・環境ツーリズム)
近年、様々な分類群において雌は雄の複数の性的形質に基づいて配偶者選択を行うことが報告されている。いくつかの理論的モデルでは、配偶者選択のコスト(雄を探索するためのエネルギーや時間など)が雌の複数形質に基づく配偶者選択の制約となることが予測されている。一般的に、潜在的な番い相手の密度と雌の配偶者探索にかかる時間との間には負の相関関係がみられることから、潜在的な番い相手が高密度であるほど雌の配偶者選択のコストは低下し、雌は複数の形質を基に雄を選択することが予想される。ヌマチチブTridentiger brevispinisは日本の淡水域に分布するハゼ科魚類であり、雌よりも雄の方が体サイズが大きく、背鰭が伸長するという性的二形を持つ。雄は石の下に造巣し、雌の産卵後、雄のみが卵保護を行う。巣石を所有していない雄は繁殖できないため、巣石を獲得できた雄のみが雌にとって潜在的な番い相手となり得る。今回、巣石量を操作した水槽内において、潜在的な番い相手数が雌の配偶者選択性に及ぼす影響について調べた。巣石の少ない水槽(雄8個体、雌8個体、巣石3個:以下、少巣水槽)よりも巣石の多い水槽(雄8個体、雌8個体、巣石8個:多巣水槽)の方が、巣石を獲得した雄の個体数が多かったことは、少巣水槽よりも多巣水槽の方が雌にとって潜在的な番い相手の密度が高く、配偶者選択のコストが小さい環境であることを示唆する。多変量ロジスティック回帰分析の結果から、多巣水槽では雌は雄の全長と背鰭長の2つの形質に基づいて配偶者選択を行い、少巣水槽においては雄の全長のみを手がかりに番い相手を選択することが明らかとなった。この結果から、本種の雌は配偶者選択のコストが小さい場合、複数の形質を用いて番い相手を選択することが示唆される。本研究は、配偶者選択のコストが雌の複数形質に基づく配偶者選択を制限するという理論的モデルを支持する。