ESJ56 一般講演(ポスター発表) PC2-790
小林哲(佐賀大 農)
マメコブシガニPhilyra pisumの繁殖生態調査の一部として,博多湾(福岡市雁ノ巣)の砂質干潟潮間帯で2008年6ー8月にマメコブシガニを採集し,生殖腺の発達を調べた.各個体は性を区別し甲幅を測定したのちに生きたまま解剖し,雄は生殖腺(精巣と輸精管)と中腸腺,雌は生殖腺(卵巣)と中腸腺,貯精嚢を切り出し,湿重量を測定した.
解剖の結果,雄では生殖腺が顕著に大きく,中腸腺よりも発達している例が多数みられた.さらに同じ甲幅の雌の卵巣と比べても雄の精巣の方が大きい傾向を示した.また雌では貯精嚢が大きく膨張した個体もみられた.発達した精巣は,繁殖期間を通して確認された.
カニの雄は,交尾前後のガード行動により受精の確実性を高める例が多数知られている.そのため,雄は雌に比べて繁殖成功度を高めるための生殖腺へのエネルギー投資が少なくてすむと考えられ,雄の生殖腺が雌に比べて小さいものが多い.そのため今回の結果はカニの中では珍しい.
マメコブシガニの雄は,配偶可能な同種雌がわからず,徘徊しつつ接触して相手を確認する.求愛行動せずにガードを始め(交尾前ガード),多くはその後数分で交尾を開始する.交尾は1〜2時間続き,やがて再びガードに入る(交尾後ガード).交尾後ガードは室内では1日以上続くことも多く,潮間帯で観察されるのはほとんどが交尾後ガードと考えられる.しかし波による撹乱や,大型の雄による雌の略奪でガードが続かない場合も多い.また雄は産卵と直接関係なくガードを終了し,抱卵中の,しばらくは産卵しない雌とも交尾する.一方雌は複数の雄と交尾し複数回産卵している.そのためガード行動は雄の繁殖成功を確実にするとは限らない.そのような点を補償するものとして,雄は多量の精子を産出し交尾回数を増やせるよう,生殖腺への投資を高め,精巣を発達させていると考えられる.