ESJ56 一般講演(ポスター発表) PC2-797
*桑江朝比呂(港湾空港技術研究所),R. W. Elner(Canadian Wildlife Service)
これまで,シギ・チドリ類の主食はゴカイやカニなどの底生無脊椎動物であると考えられていた.しかし,小型シギ類は高速でつつき行動を行うため,実際には餌を確認できないことが多かった.そのため,底生動物以外の餌が疑われていたものの,詳細は長年の謎であった.そこで,春の渡りの中継地としてカナダ国バンクーバー近郊の泥質干潟に飛来するヒメハマシギの食性について検討した.
望遠ビデオカメラによる採餌行動解析・胃内容物分析・熱量収支・安定同位体比解析の4つの手法を用いて食性を調査した.特に,干潟堆積物表面を覆っているbiofilm(バクテリアや底生微細藻類およびそれらが分泌する多糖類粘液で構成された0.01寂-2 mmほどの薄い層)をヒメハマシギが採餌しているという仮説を検証することに焦点を当てた.
採餌行動の解析結果からは, 1分間に144±32回のつつき行動をするなかで,繊毛で覆われた舌を用いて,biofilmを絡め取る行動が観察された.実際,胃内容物の76±13%は堆積物で占められ,胃内容物中の光合成色素は堆積物表面のbiofilmと一致した.また,78%のサンプルから多毛類の顎や剛毛といった未消化物も観察された.熱量収支の結果からは,1日に必要な熱量の50±18%をbiofilmから得ていることが示された.安定同位体比の結果からは,食物源の45-59%がbiofilmであると推定された.したがって,すべての結果はbiofilm採餌を支持した.本研究の結果は小型シギ類が一次消費者でもあることを意味するため,シギ類は「底生動物を主食とする二次もしくはそれ以上の高次消費者」というこれまでの常識を覆し,底生無脊椎動物と直接の競争者であることを示している.