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ESJ56 一般講演(ポスター発表) PC2-821

屋久島のシカは短足か? ―島嶼個体群間での形態比較―

*寺田千里(北大・環境科学院),立澤史郎(北大・文・地域システム),齊藤隆(北大・北方生物圏フィールド科学センター)


屋久島に生息しているニホンジカは近年急増し、その採食圧等のために希少植物の絶滅などが懸念されている。そのため保護管理計画の策定と実行が急務であるが、シカの絶滅リスクを考慮に入れた管理のためには、シカ自体の固有性を評価する必要がある。屋久島のシカ個体群は屋久島特有の地形や気候に応じ、近隣の地域個体群と違った地域固有の形質を示している可能性がある。そこで本報告では、頭蓋形態と肢の長さに着目して屋久島個体群と周辺島嶼個体群(九州・野崎島・種子島・口永良部島・慶良間諸島)を比較した。頭蓋形態は、特にサイズを表すと考えられる成分について、九州個体群が大きくその他の島嶼個体群と明確に分かれた。しかし九州以外の個体群に大きな差異はなく、屋久島個体群に顕著な特徴は見られなかった。この結果は、有蹄類など大型哺乳類で見られる島嶼地域で体サイズが小さくなるという島嶼化の傾向と一致した。一方、各肢骨の長さは地域個体群間で異なった。特に下部の肢骨(中手骨と中足骨)で地域個体群間の差が大きく、九州個体群が最も長く、次いで種子島、慶良間、野崎島、口永良部島の順で短くなり、屋久島個体群が最も短かった。体サイズを考慮して相対的な中手骨の長さを比較した結果、やはり九州個体群が最も長く、屋久島個体群は最も短かった。以上の結果から、頭蓋のサイズは島嶼化の傾向が見られたが、肢の長さはそれとは異なることがわかった。特に屋久島個体群の中手骨は極端に短く、他地域個体群と比べてより固有な形質を持っていると考えられた。肢骨の形態は特に移動に関連して変異していると考えられ、屋久島の特異的な環境が反映された変異ではないかと示唆された。


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