ESJ56 一般講演(ポスター発表) PC2-823
*田中裕久,奥村友梨,高津戸望,梶原麻友香,鈴木恵理子,山本俊昭(日獣大),岡輝樹(森林総研)
青森県下北半島は、日本におけるツキノワグマの生息地の最北限であるが、生息数は1996年の段階で100頭以下と推定されており、絶滅が危惧されている地域である。また、環境省のレッドデータブックでは「絶滅のおそれのある地域個体群」に登録されている一方で、これまで十分な調査が行われておらず、遺伝的特性に関する情報は皆無である。そこで本研究では、下北半島の個体群と近隣の津軽地方に生息する個体群間で遺伝的多様性の程度や個体群間の遺伝的交流の有無など比較することにより、下北半島に生息するツキノワグマの遺伝的特性を明らかにすることを目的とした。
マイクロサテライトマーカを用いたDNA解析には、青森県のツキノワグマ保護管理対策事業の一環として行われたヘアトラップ調査によって採取された体毛サンプルを用いた(下北半島53サンプル、津軽地方77サンプル)。9座位のマイクロサテライトを解析した結果、下北個体群の遺伝的多様性は津軽半島の個体群に比べて極めて低いことが明らかになった。また、他の地域と比較した場合、津軽地方個体群においても遺伝低多様性は決して高くないことが示された。一方、FST値を求めた結果、両個体群は遺伝的に分化していることが明らかになった(FST値、0.119)。Assignment testの結果では、下北半島の個体群で1個体、津軽地方の個体群で2個体が移動した個体であることが示唆された。以上の結果より、下北半島に生息するツキノワグマ個体群は、他の個体群からわずかに遺伝子流動があるものの、遺伝的多様性が低く、かつ遺伝的浮動の影響を強く受けている個体群と考えられた。