ESJ56 一般講演(ポスター発表) PC2-842
増本育子(中電技術コンサルタント),兼子伸吾(京大・院・農),大竹邦暁(中電技術コンサルタント),井鷺裕司(京大・院・農)
ヤチシャジンAdenophora palustrisは、湿地に生育するキキョウ科の多年生草本である。国内における残存集団としては、広島県の4つの野生集団(計約600個体)および岡山県の栽培集団以外に明確な記録が無く、環境省のレッドリストにおいては絶滅危惧IA類、広島県のレッドデータブックにおいては絶滅危惧I類に指定されている。また、野生集団には、種子繁殖していると考えられる集団と、発芽可能な種子がほとんど生産されずクローン繁殖のみに依存していると推定される集団がある。本研究では、ヤチシャジンにおける生育地外での復元集団の構築や自生地における人工授粉等の保全対策を検討するため、残存集団および現存する復元集団の遺伝的多様性および集団間の遺伝的分化についてマイクロサテライトマーカーを用いた解析を行った。
ヤチシャジンの4つの野生集団(A〜D)および栽培集団(E)計178個体 (A: 51個体, B:20個体, C: 53個体, D: 16個体, E: 38個体) から葉を採取し解析を行った。その結果、遺伝的多様性は集団間で著しく異なっており、発芽可能な種子がほとんど生産されていない集団については、ほぼ全てのラメットが同一ジェネットであることが明らかとなった。また、全ての集団間には明瞭な遺伝的分化が認められ、比較的近距離 (約1.5 km) の集団間においても有意な遺伝的分化が存在した。これらの結果は、種内の遺伝的多様性を保全するためには、それぞれの野生集団の維持が重要であること、それぞれの集団を独立した保全単位として扱うことが望ましいことを示唆している。また、発芽可能な種子生産を促すための人工授粉を行う際には、各集団の遺伝的固有性を保全するために集団間の花粉の移動を最小限にする必要があると考えられる。