ESJ56 一般講演(ポスター発表) PC2-853
*浜崎健児,田中幸一(農環研・生物多様性)
水田は、米を生産する場であると同時に、湿地に生息する様々な水生生物の代替環境としても重要である。しかし、栽培技術の近代化・効率化に伴う水田環境の改変によって、多くの種が減少する傾向にあり、これらの保全に向けた対応が求められている。
これまで、水田における生物多様性の保全は、農薬を用いた病害虫防除等による効率的・安定的な生産との間でトレードオフの関係にあり、これらを両立させることは難しいと考えられてきた。しかし、近年、安心・安全な農産物に対する消費者の関心が高まっており、有機農業の推進に関する法律の制定や農地・水・環境保全対策の導入など、農薬等の化学資材のみに依存しない有機・減農薬栽培の普及に向けた取り組みが進められている。今後、有機・減農薬栽培が、農家の労力や地域環境に即して実施されるようになれば、これまでの慣行栽培地域に、それとは異なる栽培田がモザイクを形成し、水田に生息する生物群集に対して様々な影響を及ぼすと考えられる。特に、有機・減農薬栽培の一つとして実践されている成苗移植栽培では、成苗1〜2本を疎植し、雑草対策としての深水管理や茎数確保のための長期湛水が行われており、水生生物に対するプラスの効果が期待される。
そこで、本研究では、水田に生息する水生昆虫を対象として、栃木県および福島県南部の成苗移植栽培田と周辺の慣行栽培田において、タモ網によるすくい取り調査を行った。得られた種数および個体数のデータを比較することで、栽培管理の違いが水生昆虫の種構成に及ぼす影響を検討した。