ESJ56 一般講演(ポスター発表) PC2-856
*白川勝信(高原の自然館),内藤順一(広島県立祇園北高等学校)
本発表では,八幡湿原自然再生事業地における2001年から2008年にかけての,両生類の産卵に関するモニタリング調査結果について報告する.八幡湿原自然再生事業は2003年に始まり,現在進行中の事業である.事業対象地は広島県北広島町東八幡原に位置する西中国山地国定公園内の県有地,20.5haである.八幡地区は周囲を1,000m以上の山々に囲まれた海抜800mの高原の盆地で,気候は冷温帯にあたる.年間の降水量は2,400mmから2,600mmと多く,冬の降雪量は2m近くに達する.八幡盆地には大小様々な湿原が存在し,それらすべての湿原において最近50年の間に14%から79%の面積が失われた.霧ヶ谷湿原は八幡盆地の千町原地区に存在していた.1964年から1686年にかけて広島県によって大規模草地として開発され,コンクリート水路の設置による排水や表土の改変,牧草の播種などが行われたが,現在は牧場が閉鎖され,自然公園として利用されている.
自然再生事業に先立ち,西中国山地自然史研究会では,2001年から毎年4月下旬にカスミサンショウウオの産卵状況をモニタリングしている.自然再生のための工事が実施された2007年以前には,牧場跡の縁に沿って20〜70対の卵嚢が安定して確認されていた.その一方で,造成地内ではカスミサンショウウオの産卵は確認されず,ヤマアカガエルの卵塊が3〜5個確認されたのみであった.また,公園整備に伴って設置された道路側溝の排水枡には,40対以上の卵嚢が確認された.カスミサンショウウオの成体は道路側溝を登ることができないため,個体群の維持に寄与しない.2007年に工事が行われた翌春の調査では,前年までの産卵地に加え,工事区域内においても4対の卵嚢が確認された.また,ヤマアカガエルの卵塊は124卵塊と大幅に増加し,新たにニホンヒキガエルの卵嚢も4個確認された.