ESJ56 一般講演(ポスター発表) PC2-858
*皆川朋子((独)土木研究所 自然共生研究センター),萱場祐一((独)土木研究所 自然共生研究センター)
河川流量が人為的に制御されている区間の河床では,しばしば有機物やシルトの堆積,付着藻類の大量繁茂等が生じ,景観や生物の餌資源としての質の低下が指摘されている.その要因として,流速の減少や流況の平滑化があげられる他,ハビタットの変化を介した生物相や生息密度の変化によって,河床付着膜が生物に摂食されなくなったことがあげられる.本研究では,河床環境の修復,さらには健全な河川生態系の保全のための河川流量管理に資するため,藻食生物の摂食が河床付着膜に果たす生態的機能に着目し,アユ,オイカワによる摂餌が河床付着膜の性状と一次生産に果たす役割を評価した.
実験は,自然共生研究センター内の実験河川を用いて行った.河床に礫(φ15cm程度)を設置し,約1ヶ月経過後,アユ放流区,オイカワ放流区,放流なしの区間を設け,それらの河床付着膜の組成及び最大光合成速度(明暗瓶法による)を比較した.その結果,アユの摂餌は,糸状緑藻(サヤミドロ Oedogonium sp.,アオミドロSpirogyra sp.)や細粒土砂を減少させること,最大光合成速度が大きくなること等が明らかになり,付着藻類の自然剥離に伴う下流への汚濁負荷の軽減,河川景観の維持にも役割を果たしていることが示唆された.オイカワの摂餌については,アユほど顕著ではないが,珪藻が優占する付着膜に対しては,性状の変化が認められた.今後,さらに基礎知見を蓄積し,本来その河川に生息すべき生物が生息できるよう流量・流況,土砂,ハビタットの修復を図り,健全な河川生態系が成立する体質改善型の河川管理へと発展させていきたい.