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ESJ56 一般講演(ポスター発表) PC2-862

カワウの採食場所の決定プロセス

井口恵一朗(中央水研),田中英樹(群馬水試),鶴田哲也(中央水研),小西浩司(群馬水試),棗田孝晴(中央水研),品川卓志(群馬水試),阿倍信一郎(中央水研),鈴木究真(群馬水試)


生息数の激減により絶滅が危惧されたカワウだが、近年は猛烈な勢いで増え続けている。本種の個体群回復過程では、内陸部方面の生息地が新規に開拓される事実がある。強度の魚食性ゆえに漁業被害が懸念され、内水面漁場では「カワウ問題」が勃発する事態に陥っている。しかし、本来ならば臆病な鳥が、侵入・定着を許された背景には、不明な点が多い。本研究では、「対象動物までの接近可能距離(Flight Initiation Distance: FID)」を指標に、カワウ採食場所の決定要因について検討を試みた。

最近になってカワウの定着が確認されるようになった群馬県下、郊外を流れる渡良瀬川と粕川ならびに都市近郊を流れる桃の木川と井野川に調査区域を設定した。FIDは河川間で異なり、都市近郊河川で短くなる傾向を示した。餌の採り易さの指標として、電気ショッカーによる単位努力量当たりの漁獲量(Catch per Unit Effort: CPUE)を比較したが、河川間で魚類の多少に有意な違いは検出されなかった。一方、カワウの摂餌が頻繁になる朝の時間帯に、堤防道路を行き交うヒトの通行量を計数したところ、彼らに危害を加えないヒトと遭遇する機会が、都市近郊河川において圧倒的に多いことが判明した。また、2つの都市近郊河川におけるFIDと摂餌地点のCPUEの間には負の相関関係が成立した。

カワウは、餌獲得の期待値とヒトから受ける脅威のトレードオフを介して、FIDを測っているのかも知れない。無害なヒトと空間を共有する経験が、鳥の行為を大胆にさせ、短縮されたFIDが摂餌成功率を引き上げる構図が予想される。カワウの定着促進には、カワウに無関心な大勢のヒトの存在が関わっている可能性が垣間見える。


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