ESJ56 シンポジウム S02-2
*角谷拓,須田真一,鷲谷いづみ(東大)
全国版レッドリストは環境省により5年を原則に見直しが行なわれる。2007年に実施された昆虫のレッドリスト見直しの際に、トンボ類を対象に、過去(1960年代前後)から現在までの生息地数の減少率にもとづく定量的な絶滅リスク評価が実施された。これは、各県の専門家へのアンケート調査により得られた情報にもとづいて行なわれたものであり、昆虫では初めての画期的な試みであった。
国内に生息している200種のうち評価対象となった全57種について、生息地の減少率をベースに、現存生息地数および生息環境の将来の不確実性を考慮した絶滅リスクが算出された。本研究では、マクロ生態学のアプローチにより絶滅リスクと種の生態的特性との関係を分析することでどのようなタイプの種がより高い絶滅リスクにさらされているかを明らかにすることを目的とした。このようなアプローチをとることで、減少率を計算するための時間変化に関する情報が十分に得られない場合でも、空間分布情報や既知の生態学的特性にもとづいて絶滅リスク評価を適切に行なうための枠組みの提案が可能になることが期待できる。
統計分析の結果、(1)止水性>流水性および(2)広域種>島嶼種>狭域種(それぞれ全国的に分布、島嶼のみに分布、1〜2生物地域のみに分布)の順で絶滅リスクが高くなることが示された。また、種の生態に関する既知情報を整理した結果、止水性種や広域種は他のタイプの種群にくらべて、水田・ため池・かんがい用水路などの水田水域環境に依存している種の比率が高いことがわかった。これらのことから、全国的な圃場整備の進行や休耕・放棄の拡大といった農業環境の変化がトンボ類の絶滅リスクに強く影響を及ぼしていることが示唆された。