ESJ56 シンポジウム S02-5
*大谷雅人(森林総研),石濱史子(国環研),西廣淳(東大)
絶滅危惧植物の保全をはかるためには,対象種がもつ生態的特性について深く理解したうえで,個体群の衰退をもたらしている環境要因の把握・解決をはかることが重要である.しかし,今後危機的な状況に陥る可能性のある種のすべてに対して詳細な情報を得ることは困難であるため,効率的な保全計画の策定のためには,絶滅リスクが既知の多種の比較にもとづいて,リスクと生態的特性との関係の一般的な傾向を抽出し,潜在的な絶滅リスクの客観的指標として用いることが有効であると考えられる.
こうした試みについては特に海外ですでにかなりの事例が報告されているが,絶滅リスクに影響する生態的特性はそのフロラがおかれている環境的・歴史的背景によって大きく異なると予想されるため,今後も幅広い系統群や地域を対象とした知見を集積していく必要がある.また,上記の研究の中には,系統関係を考慮せずに比較を行ったものが含まれる.危機的な種の出現しやすさは系統関係に関してランダムではない可能性があり,系統的グループの違いを意識した解析を行うべきである.
一昨年の日本の維管束植物版レッドリストの改訂においては,絶滅リスク判定の客観的な基準として,対象種の最近10年間の個体群の推移にもとづく確率論的シミュレーションの結果が用いられた.本講演では,既往の研究について紹介したうえで,系統的グループごとのレッドリスト種の出現パターンの違いを,異なる地域のフロラ間での比較に基づいて把握する.その結果を踏まえ,幾つかの系統的グループに対象を限定して,生育環境,植物体サイズ,核型,生活型,クローン繁殖特性,性表現,送粉様式,種子分散様式などといった生態的特性とレッドリストにおいて提示された絶滅リスクとの関係について評価する予定である.