ESJ56 シンポジウム S03-8
正木 隆(森林総研)
東北地方の太平洋側にはアカマツ林が多く、侍浜松や白幡松のように固有の名称が付けられ、幹が大径で通直なことで有名な林分がある。中には、松森山や白幡松のように人工造林によるものもあるが、多くは天然更新によって成立したと考えられている。たとえば岩手県の東山松群落保護林の土壌は黒色土であることから、おそらく数百年の長期にわたり、草地としての利用とその放棄によるアカマツ林の成立というサイクルが繰り返されてきたのだろう。
戦後、岩手県ではアカマツの人工造林地が急増した。しかし、造林の歴史の古いスギやヒノキと異なり、アカマツの人工林施業の技術体系は確立していない。高齢に達した人工林の管理技術は、とくにこれから検討を進めなければならない事項である。明治期の国有林特別経営の時代に人工造林が集中的におこなわれ、各地に時々その残滓がみられる。上述した東山松群落保護林から数kmのところにそのようなアカマツ人工林が残っており、現在樹齢100年生に達している。この人工林の種子源は東山松群落保護林といわれており、管理次第によっては保護林と同様の林相に導ける可能性がある。
だが、人工林の林分構造および過去の成長経過を分析した結果、近年の個体の成長は停滞しており、樹高に比して直径は細く、群落保護林と同様の構造に推移していく見込みは低い。
そこで、2002年に人工林の一部で間伐実験をおこない、個体の成長反応の長期観測を始めた。以来7年、目に見えるような間伐効果はまだ顕れてない。しかし、樹冠面積の変化を数値化すると、わずかに拡張している個体がある一方で、むしろ樹冠面積が減少している個体もみられた。高齢に達したアカマツ林を間伐しても、すべての個体の成長が回復するわけではないと考えられる。次の作業としては、そのような個体差を間伐前に把握できるような指標(たとえば、樹高と直径の比、樹冠長比など)を見出すことである。