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ESJ56 シンポジウム S05-2

侵略アリ研究の現状と課題ー平衡群集観への挑戦

辻 和希(琉球大学・農)


アリの生態学の近年最大のトピックは融合コロニー性を示す侵略的外来アリの問題である.アルゼンチンアリなどの侵略的外来アリは融合コロニーという巨大なコロニーを作り,他種アリを排除する傾向が強い.ここで,1.資源要求の似た在来アリ種間にそもそもなぜ共存が成立し,外来種の介在でそれが阻まれるのかという群集生態学的問題, 2.融合コロニー性の下では個体群=コロニーとなるため巣内血縁度がゼロとなるにもかかわらず,真社会性が維持されているのはなぜかという社会生物学的問題,3.一般に遺伝的多様性の乏しい外来種個体群に大発生がおこるのはなぜかという集団生物学的問題,という各分野の基本的質問が提示できる.従来これらは安定な環境を仮定した理論体系で説明がなされてきた.すなわち,社会生物学者は子供の数と血縁度だけで性質の適応価を測り,群集生態学者は競争&ニッチ理論で説明してきた.例えば集団遺伝学,群集生態学,社会生物学を総合した現在支配的な学説にボトルネック説がある.外来生物個体群はしばしば侵入時に遺伝的ボトルネックを経験する.アリは遺伝的な情報によりコロニーの所属を識別するが,ボトルネックを経験した外来アリ個体群では識別を可能にする遺伝変異が欠乏し,本来なら敵対するはずの同種の異コロニーが融合してしまう.すなわち融合コロニー性は非適応的現象であると本説は主張する.さらに他種の排除は種内競争の欠如により種間競争が卓越する状況が生み出されるので群集理論で説明可能とされる.しかし,見落とされがちなのは侵略的外来アリ種の撹乱環境依存性である.私は環境に時間的変動があるときは,齢構造下での生活史戦略と非平衡群集という観点の導入が必要との考えから,沖縄のアリ群集を材料に研究を展開している.本講演ではその成果の一部を紹介する。


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