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ESJ56 シンポジウム S05-3

環境撹乱下での,アリのコロニー分割比と拡散距離のトレードオフについて

*中丸麻由子(東工大),高田(北大),大槻亜紀子(総研大),辻和希(琉球大)


拡散戦略の進化は生態学の重要な研究トピックである。親の近くに子孫を産む場合や同じ場所に生息し続けると、親子間の競争、近親交配、過密化が生じたり、環境撹乱によって近縁個体がまとめて死滅してしまう。これらのリスク回避のために、長距離拡散戦略が進化したという。しかし、アシナガキアリ、ツヤオオズアリやある種の珊瑚など、コロニーを単位とする定着型生物では、環境撹乱があっても長距離拡散を行わない。では、環境撹乱下で長距離拡散が進化しなくても生存できる条件は何であろうか。本研究では、環境撹乱下での、コロニー成長、コロニーサイズ依存死亡率、コロニー分割後の拡散距離のトレードオフに着目し、格子モデル上でコロニーサイズ推移行列モデルを構築し、その条件を探った。

モデルの仮定は以下の通りである。格子上にコロニーが分布している。コロニーはあるサイズに成長すると2分割して、一方を空格子点へ拡散させる。分割比と拡散距離のトレードオフに着目するために、次の2戦略の空間を巡る競争モデルとした。コロニーを1:1に分割して、一方のコロニーを近くの空き格子点へ拡散する戦略(S戦略)と、コロニーを大:小に分割して、小さな方をランダムに拡散させる戦略(L戦略)である。例えば、分巣するアリは S戦略に相当し、女王アリが単独で遠くへ飛行する場合は L戦略に当たる。環境撹乱については、撹乱頻度に加え、撹乱の空間規模も考慮し、規模が大きいほど環境撹乱によって格子上の広範囲にわたってコロニーが消滅するとした。

すると、推移行列モデルの数理解析やシミュレーション解析によって、環境撹乱下で短距離拡散タイプが進化するためには、(1)環境撹乱頻度は高いが、環境撹乱規模は小さく、(2)サイズの小さいコロニーの死亡率が非常に高い、という2条件が必要であることを示した。


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