ESJ56 シンポジウム S05-4
久保田康博(琉球大学・理)
森林を構成する樹木にはクローンである萌芽幹を形成する種が数多くあり、熱帯林や温帯林では幹の40〜70%が萌芽で占められている。樹木の萌芽幹形成は、撹乱環境下で個体の死亡率を緩和させる効果があり、種個体群の動態において重要な特性となっている。また、ジェネットの萌芽成長による空間占有は、種間の競争様式にも関係するので、萌芽種の動態は樹木種の共存機構にも影響を与える可能性がある。クローン成長する萌芽種の動態は、森林群集の種多様性や生産性をどのように制御しているのだろうか。これが本研究の問いである。本論では、北方林・冷温帯林・暖温帯林・亜熱帯林それぞれで樹木の萌芽特性を比較解析し、萌芽種の個体群構造と動態が、森林群集の種多様性と生産性の関係に及ぼす影響を検証した。北から南まで各森林の撹乱様式や撹乱圧は、それぞれ異なっている。例えば、亜熱帯林は強度の台風で恒常的に撹乱されており、群集における萌芽種の占める割合は70%に達し、萌芽種の生産性も高かった。これは、撹乱傾度で萌芽種のニッチが開放され、“萌芽成長”という機能型種の増加が、群集レベルの生産性を強化していることを示唆している。亜熱帯林では、ほとんどの種が萌芽特性を有するに対し、冷温帯林や暖温帯林では、特定の林冠種や下層種にしか萌芽特性がみられなかった。萌芽種の局所的な在・不在による種多様性の空間的分散と萌芽種の生産性が、種多様性−生産性パターンに影響を与えていた。結論として以下の3点が挙げられる。1)亜熱帯林から冷温帯林まで、樹木種多様性と生産量は正の相関関係を示したが、萌芽種の優占度に応じて多様性−生産性関係は変化する。2)樹木の萌芽成長による競争排除効果と生産量増強効果のバランスが、多様性−生産性関係を決定する。3)萌芽成長による競争排除効果と生産量増強効果の両者とも強く作用すると多様性−生産性関係はunimodalパターンになる傾向がある。