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ESJ56 シンポジウム S09-5

小笠原諸島における絶滅危惧種の遺伝的多様性

加藤英寿,森啓悟,加藤朗子,常木静河(首都大学東京・牧野標本館)


環境省が2007年に発表した植物レッドリストには、小笠原産の維管束植物として絶滅危惧I類(CR+EN)74分類群、絶滅危惧II類(VU)55分類群が掲載されている。また種の保存法(絶滅のおそれのある野生動植物の種の保存に関する法律)で指定されている植物23種のうち12種が小笠原に分布するなど、まさに小笠原は「絶滅危惧種の宝庫」となっている。しかしながら現在検討・実施されている保護増殖事業は、生物多様性の重要な要素である遺伝的多様性について十分な研究・検討がなされずに進められていることが多い。これは遺伝子レベルの調査研究にかかるコストや時間・技術的な障壁によると思われるが、最近ではマイクロサテライトマーカー開発・解析のハードルも下がりつつあり、十分実用的な段階になってきた。

私達はこれまでに小笠原固有植物群を対象とした種分化研究において、ムラサキシキブ属(クマツヅラ科)・シロテツ属(ミカン科)・タブノキ属(クスノキ科)などの集団遺伝学的解析を進めてきた。これらの属の中には諸島内に広く分布する種と絶滅危惧種が含まれることから、その遺伝的特性を比較することも可能である。マイクロサテライト遺伝子座を用いた解析の結果、広域分布種に比べて個体群サイズの小さい絶滅危惧種の集団内にも高い遺伝的多様性が見られたことや、広域分布種の集団間に顕著な遺伝的分化や集団内に複雑な遺伝構造が存在することなどが明らかとなりつつある。

遺伝的多様性保全の観点から見れば、絶滅危惧種の保護増殖・植栽に偏った現在の保全対策には疑問を感じざるを得ないが、今後さらにユビキタス・ジェノタイピングを進めることにより、個体の履歴や集団の遺伝的構成の変化を追跡することが可能となり、個々の保全事業が遺伝的多様性にもたらす効果(ネガティブな影響も含む)を検証することも可能になるだろう。


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