ESJ56 シンポジウム S11-4
田中貴宏(広島大学・工)
都市の緑地計画・管理を担う都市環境計画分野は、生態学分野でポリシーメーカーもしくはデシジョンメーカーと呼ばれている立場に近い分野であるが、その意思決定に際し、従来プランナーやデザイナーの主観に頼る面も多かった。これは科学的知見の少ない中でも決定を行わなくてはいけないという都市環境計画分野の置かれた状況によるところが大きい。しかし環境配慮が求められる近年、科学的知見をより積極的に活用する必要性が指摘されている。このような背景から、都市の緑地が持つ様々な生態系サービスの定量化や、そのサービスを効率よく享受するための計画・管理手法の確立を目指した研究が近年活発に行われるようになりつつある。その対象となる生態系サービスはヒートアイランド現象の緩和、大気浄化、火災延焼防止、洪水調整、土砂災害防止といった調整サービスや農産物提供のような供給サービス、さらには生き物とのふれあい、美しい都市景観、レクリエーション・健康づくりの場といった文化的サービスと多岐に渡っている。「生態リスク」を「生態系サービスの劣化に伴い人間が不利益を被るリスク」ととらえると、生態リスクに配慮した都市緑地の計画・管理とは、これら生態系サービスをバランスよく享受することができる都市緑地の計画・管理であるということができる。特に、我が国は人口縮減期に入っており、新たな都市環境計画の枠組みが求められている。そこで、生態系サービスをバランスよく享受することができる都市緑地の計画・管理手法を確立し、その枠組みの中に組み込んでいかなくてはならない。そのためには、シナリオに対して生態系サービスを総合的に評価するためのツール(総合シミュレーション)、管理・計画支援情報の整備、管理・計画主体へのわかりやすい情報提供手法の確立、Plan Do See を可能とするためのツールの開発などが課題として挙げられる。