ESJ56 シンポジウム S14-4
*鮫島弘光,北山兼弘(京大・生態研)
ゾウやオランウータンなど熱帯林の中大型哺乳類は多くの絶滅危急種を含むだけではなく熱帯林のフラッグ種として広く認識されている。このため変動環境下においてその多様性と個体群の動態を把握し、維持を図っていることが重要である。しかしながら現在までのところ、熱帯林の管理単位では一般的な、数百〜数千平方キロといった広域スケールで実施することができ、経済的かつ簡便で、多くの種を網羅的に対象とできる、中大型哺乳類の調査手法は確立されてこなかった。さらにはどのような管理手法が広域スケールでの個体群維持にとって有効であるかも明らかになっていない。
近年熱帯林のいくつかの種類の地上性中大型哺乳類の生態研究の手法として、自動撮影カメラが使用されるようになってきた。自動撮影カメラを多数設置すれば、一定期間内に写った動物の種数や撮影頻度から調査エリア内の種多様性や個体群密度の大きさが推定できると考えられる。この手法を応用すれば、上述のような広域センサスが誰でも可能になり、持続的森林管理を目指す現場で保全地域の選定や伐採影響のモニタリングの手法として広範な普及が期待される。さらに実際に自動撮影カメラによって広域の生息データを収集し、環境条件や伐採システム・履歴から多様性・生息密度を予測できるモデルが構築できれば、施業シナリオごとの将来予測が可能となり、施業計画の立案にも有用である。
そこで本研究は以下の2点を目的としている。
1)数平方キロ内の動物の多様性・個体群密度を把握するために必要な調査努力量の決定。
2)数百平方キロ内での動物の多様性・個体群密度の把握。その予測モデルの作成。
調査はマレーシア・サバ州のデラマコット・タンクラップ森林施業区(合計約800km2)で、約100台の自動撮影カメラを用いて行っている。