ESJ56 シンポジウム S15-2
矢原徹一(九州大学大学院理学研究院)
2000年に出版された環境庁(当時)植物レッドデータブックでは、世界のレッドデータブックではじめて、定量的な絶滅リスク評価を採用した。この評価にあたっては、長年植物を観察している約400名の調査員に協力をあおぎ、現存個体数の情報提供に加えて、経験的判断にもとづいて過去の減少率の評価を依頼し、回答された数値(桁)にもとづいて、絶滅リスクを評価した。しかし、この調査(1994-95)時点での減少率の評価は、記憶と経験的判断にもとづくものであり、主観的要素を含むものだった。
2003-04年に実施された植物レッドデータブック見直し調査では、1994-95時点での個体数(桁)情報を調査員に送り、その後の変化を考慮に入れて、現存個体数(桁)の評価を依頼した。この調査により、全国3,781メッシュの1,697分類群(種・亜種・変種、以下「種」と総称)について、個体数(桁)の推移行列が得られた。改訂版植物レッドリスト(2007)では、この推移行列にもとづいて、絶滅リスクの評価を行なった。その結果、CRは564から523に41減ったものの、 ENは480から491へ、VUは612から676へ増え、絶滅危惧種数は1665から1690へと増えた。
2回の調査で集められた数値データから、絶滅リスクが集中する地域(ホットスポット)を特定できる。どの地域を保全することが全体の絶滅リスクを下げるうえで有効か、という基準で評価を行なった結果、沖縄・小笠原・伊豆諸島などの島嶼部がホットスポットの上位をしめた。
今後は、空間情報にもとづく分布モデリングと結びつけることで、さらにリスク評価の精度を高めることができるだろう。また、評価を保全に結びつける努力(とくに行政措置)を強めることが、調査の継続のために必須である。