ESJ56 シンポジウム S15-3
*鷲谷いづみ,角谷拓,西原省吾,須田真一(東京大学大学院農学生命科学研究科)
生物多様性の危機に適切に対処するため、科学的な現状認識・評価・将来予測およびその総合化が課題となっている。そのような目的には、適切な指標と人間活動の影響を評価する枠組みが欠かせない。指標開発と評価の取り組みの例としては、2006年に公表された「地球規模生物多様性概況2(GBO2)」がある。GBO2で評価に用いられた15の指標のうち、生態系の健全性と生態系サービスの指標(計3指標)の一つが「連結性:生態系の分断化」である。連結性の喪失は、日本においても多様な空間スケールにおいて多様な形で問題となっている。その対策としての「生態系ネットワーク」は、今では生物多様性国家戦略のみならず、国土や農地整備にかかわる政策にも位置づけられている。しかし、具体的な方策・計画として実践するためには、科学的な評価・予測が欠かせない。生物多様性総合評価は、既存のデータにもとづいて実施されるため理想的な調査デザインはのぞめず、大きな制約があることは否めないが、標準的な手法で収集された広域的なデータのもつ利点を活かした解析を行うことができるという利点を持つ。ここでは、現場調査で培ったナチュラルヒストリーの「勘」を活かしながら、広域的にデータを扱って、生物多様性の保全・再生に真に寄与する「生態系ネットワーク」の構築のための指標や評価について、里地・里山の淡水生態系を例に考えてみたい。