ESJ56 シンポジウム S21-1
柴田英昭 (北大・フィールドセンター), Nina Ileva (北大・環境), 佐藤冬樹 (北大・フィールドセンター), 上田宏 (北大・フィールドセンター)
食糧・木材生産などの土地利用変化は流域生態系の構造と機能を変化させるため、流域環境変化や生態系サービス劣化が懸念されている。また、上流から中下流を経て沿岸に至るまでの生態系のつながりや機能変化については未解明な点が多く、将来における持続的な生態系保全技術や施策を検討するための科学的知見は依然として限られている。本報告では、北海道北部に位置する日本最北の一級河川である天塩川流域において上流の森林域から河口にかけて流域土地利用変化生態系能の関係について総合的に解析を進めているプロジェクトの紹介を行う。森林伐採や農業活動などの土地利用は栄養塩をはじめとするさまざまな生物地球化学循環を撹乱することが知られている。ここでは、栄養塩として特に重要である窒素と、生物のエネルギー源として重要である溶存有機炭素に着目し、その変化パターンと変動要因の解析を行った。
上流の森林源流域では木材生産のために樹木を伐採すると、樹木の養分吸収が停止することで土壌から河川へと栄養塩である硝酸態窒素が溶脱することが知られているが、本地域における冬山造材によって林床に残存したササが河川への硝酸溶脱を抑制することが示された。また、河畔湿潤部が溶存有機炭素の供給源として特に重要であることが示唆された。また、農業活動による土地利用において、肥料投入量と作物収穫量とのバランスから土壌内に余剰する窒素を推定したところ、流域の多くの地域において過剰な肥料投入が多くの余剰窒素を生じていることが示された。それら余剰窒素の流域内空間分布と河川水質を比較したところ、中下流部における農業活動は天塩川流域全体の水質形成に強く影響していることが示された。