ESJ56 シンポジウム S21-5
畠山重篤 (気仙沼「牡蠣の森を慕う会」/京大・フィールド研)
私は宮城県気仙沼湾で牡蠣の養殖を生業とする一漁民です。昭和22年、父が小さな養殖場を創業し、私が二代目、今三代目の息子が跡を継いでいます。孫も4人生まれ、小学1年生の孫が跡を継げば家業は百年続くことになります。他の養殖業と比べ経営が比較的安定しているのは、餌代がいっさいかからないことと、種苗が天然採苗で安定的に採れ、安価であることです。
本大会の会場が盛岡であることは、森里海のつながりを探る上で大きな意義があります。それは、牡蠣の天然採苗世界一の産地が北上川河口の石巻湾、それに連なる万石浦だからです。この種苗は宮城県の海で採れるので宮城種(みやぎだね)と呼ばれていますが、成長が早く、病気に強く、味が良いという素晴らしい性質の牡蠣なのです。北海道から九州までの国内の産地はもとより、アメリカ西海岸、フランス、ニュージーランド、タスマニア、韓国、中国など、世界の主産地で養殖されている牡蠣こそ、宮城種なのです。奥羽山脈、北上山地の森林の養分が北上川を通して石巻湾に注ぎ、牡蠣の餌となる植物プランクトンを育んでいます。「牡蠣は森のしずく」と表現した人がいますが、森里海のつながりを牡蠣に語らせれば明解です。
著書:
「森は海の恋人」「リアスの海辺から」(文春文庫)
「牡蠣礼讃」(文春新書)
「日本汽水紀行」「鉄が地球温暖化を防ぐ」(文藝春秋)
「漁師さんの森づくり」「カキじいさんとしげぼう」(講談社)