ESJ56 シンポジウム S24-1
津村義彦,上野真義,松本麻子,津田吉晃,吉丸博志,武津英太郎(森林総研),斉藤陽子,内山憲太郎,井出雄二(東京大),青木京子(京都大学)
木本生植物の多くは様々な環境に適応して生育している。そのため同種でも分布域が広い樹種では、長い時間をかけて異なる環境での淘汰を受けている。その結果、保有している遺伝子組成が異なっていることがある。特に淘汰に係る遺伝子型が異なる集団を植栽した場合に、地域環境に適さない個体が偶然に地域集団と交配し次世代を残した場合に本来地域集団が持っていた遺伝的多様性までも衰退させることがある。これは外交弱勢(outbreeding depression)と言われる現象で、樹木の場合は一世代が長いために気づきにくい現象である。このような問題を回避するためには、それぞれの種が保有する遺伝構造を把握して、その構造を壊さない範囲で種苗の移動を行うとよいと考える。針葉樹の場合は林業種苗法で主要林業樹種に関しては種苗の移動の制限が設けられている。しかし広葉樹に関しては法律の適応がないため、自由に移動が可能な状態である。そのため種苗の移動の比較的多い樹種であるミズナラ、ケヤキ、ヤマザクラ、スダジイ、クヌギ、ヤブツバキ、ウダイカンバ、オオモミジなどについて分布域広範に集団サンプルを収集し遺伝構造を葉緑体DNA多型及び核DNAマーカーを用いて調査した。収集した集団はどの種も40集団以上で、核DNAマーカーはEST(Expressed Sequence Tag)由来のEST-SSR及びSNP(Single Nucleotide Polymorphism)マーカーを開発して用いた。その結果、どの種も明確な遺伝構造があり、2〜5程度の種苗配布区に区分した方がよいという結果が得られている。本講演ではこれらの種の遺伝構造の概略について解説し区分の妥当性について議論する。