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ESJ56 シンポジウム S24-5

複数産地由来の苗木が植栽されたブナ造林地における生育状況の比較−地域性種苗を用いる必要性を示す実例として−

小山泰弘(長野県林業セ),陶山佳久(東北大)


ブナを含む造林用の広葉樹種苗は、これまでに地域的な系統の管理がなされずに流通していることから、現存する人工林では遺伝的な地域固有性を考慮しない植栽が行われてきた可能性がある。本研究の事前調査として、まず長野県および宮城県の人工林に植栽されたブナの葉緑体DNAハプロタイプを調べた。その結果、両県ともに他地域産の種苗が植栽されたと考えられる人工林があり、中には複数産地に由来する苗木が一箇所に植栽されたと考えられる人工林もあった。そこで本研究では、これらの他地域由来種苗が用いられたブナ人工林に着目し、それらの生育状況を調査することで、地域性種苗の優位性が認められるのかを調べた。

宮城県では日本海側気候に位置する人工林を対象としたが、ここでは日本海側ハプロタイプと太平洋側ハプロタイプのブナが混在して植栽されていた。両タイプの生育状況を比較したところ、太平洋側ハプロタイプの個体は樹高・直径ともに成長が悪く、雪圧による折れと考えられる原因で多幹化している個体の割合が高かった。

一方、長野県内で調査したブナ人工林12箇所では、植栽地の気候に関わらずすべての人工林で日本海側ハプロタイプのブナが植栽されていることがわかった。これらの人工林で生育状況を調査したところ、日本海側気候の人工林では植栽個体の健全な成長が見られたが、太平洋側の人工林では植栽した個体の先端部が春に開葉せずに枯死する「先枯れ現象」が観察された。先枯れは連年発生して、成長阻害の主な要因となっていると考えられた。

以上の結果は、広葉樹造林においても地域性種苗を用いる必要性を示す実例として位置づけられ、種苗配布区域設定などの対策を講じる必要があることを示している。


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