ESJ56 シンポジウム S24-6
岩田洋佳(中央農研)
植物集団に見られる遺伝的多様性データから将来起こりうる遺伝子攪乱の程度を予測し、緑化のゾーニングや遺伝的ガイドラインを策定するためには、(1)既存の植物集団の遺伝的多様性データを収集・蓄積すること、(2)それらデータを多面的に解析すること、(3)シミュレーション解析等により遺伝子攪乱による影響を予測することが不可欠となる。このような視点から、我々は、(1)遺伝的多様性データの収集・蓄積、(2)収集されたデータの多面的解析のサポート、(3)シミュレーション解析、のためのシステムの開発と実用を目指している。本公演では、こうしたシステム開発の現状と、それを用いたシミュレーション解析の結果についてお話しする。
我々は、これまで、(1)、(2)のためのシステムとして、遺伝的多様性データを記述するためのXML仕様“PGDXML”を決定し,その仕様に基づくファイル作成・閲覧プログラムを開発した。また、(3)のためのシステムとして、遺伝的攪乱による集団の適応度の変化をシミュレートするプログラムを開発した。また、開発されたプログラムを用いて、適応環境の違い、移入率、関与遺伝子座数、自然選択の周期などの要因について、複数の条件下でシミュレーションを行った。その結果、移入率が大きく、適応に関与する遺伝子座数が多く、自然選択の周期が長いほど、適応的な対立遺伝子の頻度に大きな影響を与え、集団としての遺伝的潜在能力に大きく影響することが分かった。特に、自然選択の周期の長さと適応関連遺伝子座数の影響は大きく、自然選択が数世代に1度しか起こらず、適応に関与する遺伝子座の数が多い場合には、適応的な遺伝子型が集団から完全に失われてしまう可能性が高いことが分かった。