ESJ56 企画集会 T02-2
*定清 奨, 石原 道博(大阪府立大・理)
休眠は冬などの厳しい環境を乗り切るための戦略であり、多くの昆虫で進化してきた。休眠は代謝の低下や発育の停止、そして低温耐性などによって過酷な季節を生き残るための様々な利益をもたらす。しかし休眠中には全てのエネルギー消費が抑制されているわけではなく、徐々に消費されていくと考えられる。休眠中のエネルギー消費は休眠後の形質に分配するエネルギー量を減らしてしまうことによって、休眠世代にコストをもたらす。これまでの研究は休眠による利益にばかり注目してきたが、コストに注目することも休眠の進化を考える上で重要である。
本講演ではイタチハギマメゾウムシで検出された休眠のコストについて報告する。本種は短日条件によって終齢幼虫で可塑的に休眠が誘導される。本種の休眠世代と非休眠世代の生活史形質を比較したところ、休眠世代は非休眠世代にくらべて成虫の体サイズと産卵数が減少していた。この結果はメスに休眠のコストが存在することを示した。しかし、もし休眠がオスの繁殖形質にもコストをもたらす場合、そのコストが間接的にメスに対してもコストとなる可能性がある。これまでの研究ではオスへの休眠のコストの影響は見過ごされてきた。そこで休眠世代と非休眠世代のオスとメスを組み合わせてペアにして、メスの生活史形質を比較した。その結果、休眠したオスと交尾したメスの産卵前期間、産卵数、卵サイズは、メスが休眠しているかどうかに関わらず、休眠しなかったオスと交尾したメスよりも低い値をとった。この結果は休眠はオスに対してもコストをもたらし、メスは休眠からの直接的なコストだけでなく、オスからの間接的なコストも受けていることを示した。