ESJ56 企画集会 T02-4
*鈴木 紀之, 西田 隆義(京大・農)
化性の変異は気候適応の観点から述べられることが多い。ほとんどの場合、化性の地理変異は緯度や標高に沿ったクラインを示すからである。それに対し、緯度勾配によらない化性の変異も報告されている。それでは、このような地理変異はどのようなパターンで進化したのだろうか。また、気候適応以外の適応的意義とは何だろうか。
生活史形質の進化は系統の影響を受けるので、クラインによらない化性の地理変異が進化したのには以下の2通りのパターンが考えられる。(1)異なる生息地に定着した個体群は、それぞれの環境に適応した化性を進化させた。(2)それぞれの環境にすでに適応した化性をもつ個体群だけがそれぞれの生息地に定着できる。化性の進化における系統的制約の重要性を明らかにするために、私たちはウラナミジャノメを用いて分子系統樹を作成した。
本種は西日本に局地的に分布し、化性は年2化(6月と9月)が一般的であるものの、年1化個体群(6月または7月)が気候条件にかかわらず散在し、さらに対馬では多化性である。系統解析の結果、一部を除いて化性は系統の制約を受けないことが分かった。つまり、化性はそれぞれの環境に応じて柔軟に進化したが示唆された。
このような化性のパターンが進化した適応的意義について、本研究では種間競争の影響について検討した。なぜなら、化性と近縁種の分布には一定の関係が見られたからである。ウラナミジャノメとその近縁種は、野外において豊富に存在するイネ科植物を寄主とするので、他の植食性昆虫と同様に資源競争が強くはたらいているとは考えにくい。そこで、種間競争のメカニズムとして異種間の配偶行動によって生じる繁殖干渉に着目し、植食性昆虫の分布、食性、化性に与える影響について議論する。