ESJ56 企画集会 T03-1
小高信彦(森林総研・九州)
沖縄島北部のやんばる地域では、地上を利用する森林動物群集に占める鳥類の割合が非常に高い。絶滅危惧種である固有種の地上利用割合も高く、「飛べない鳥」であるヤンバルクイナだけでなく、固有キツツキであるノグチゲラも頻繁に地上を利用する。食肉目ほ乳類が生息しなかった同地域では、マングースなどの外来種侵入は、森林生態系の独自性に壊滅的な影響を与えると考えられる。固有生物の個体群縮小過程では、ヤンバルクイナでは外来種マングースの侵入が最大の要因と考えられ、ノグチゲラでは生息地となる照葉樹林の消失が主要因と考えられた。いっぽうで、現在のノグチゲラ分布域のなかでも、生息地の質は一様ではなく、戦後の乱伐期を通して個体群のソースで有り続けたと考えられる場所と、人為攪乱を受け局所絶滅を経験した後に再移入したと考えられる場所があり、両者の間ではノグチゲラに利用される営巣樹種や餌種に大きな違いが見られた。このことから、固有生物が現存する地域の中でも、個体群のソースとして維持されてきたであろう地域と、近年になって再移入したと考えられる地域では、異なる保護管理手法を採る必要があると考えられる。
やんばる地域において世界自然遺産に値する森林生態系を維持するには、以下のような固有生物の現状に即した生態系管理とゾーニングが求められるであろう。(1)マングースなどの外来種の徹底排除を行う、(2)固有生物のソースであり続けたと考えられる地域をコアエリア、その周辺をバッファーゾーンとして個体群維持が可能な面積で連続性を確保し、可能な限り人為の影響を加えない、もしくは、生態系再生のための管理を行う、(3)最近になって固有生物の分布が回復したと考えられる地域や、その個体群のシンクと考えられる地域では、生態系再生と森林利用のためのエリアとして管理する。