ESJ56 企画集会 T03-4
杉村乾(森林総研)
奄美大島の森林伐採は1950年頃まで択伐が中心であり、高齢級林あるいは老齢木への依存度が高い森林性生物の生息環境は担保されていた。しかし、1953年の本土復帰と大規模な林道事業の開始ともに皆伐方式による伐採量が急増し、概ね公有林、国有林、社有林の順に奥地へと伐採が進んだ。用途としてはパルプ・チップ材が主で、採算性が低かったため、1990年代初頭からは安価な輸入材に押されて伐採量が激減していたが、近年経済状況の変化によって再び増加傾向にある。
森林伐採が野生生物に及ぼす影響については、1980年代半ば〜90年代始めにかけて奄美大島で行われた調査によって、オーストンオオアカゲラ、アカヒゲ、アマミコゲラ、ケナガネズミなど、高齢級林への依存度が高い鳥獣種の生息数が減少したと推定された。また、アマミノクロウサギについては、若齢林において生息頻度を示す痕跡が相対的に多いにもかかわらず、1970年代後半から2000年代前半にかけて全体として生息数の減少傾向が続いた。一方、マングースの増加が顕著でない地域では1990年代以降、ほぼ横ばいまたは増加傾向が見られたので、広域的に見ると森林伐採の消長と連動していた可能性がある。
伐採量の大幅な減少は野生生物保護にとって概ねプラスに働く可能性が高く、世界自然遺産登録に向けた国立公園や生態系保護地域の設定は高齢級林の面積をある程度確保する点で評価できる。しかし、奄美大島の国有林は分散しているうえ、面積は6%程度にすぎない。さらに、島の中央部に大きな面積を占める社有林の伐採計画が立てられているため、国有林を核としてどのようにして実効性のある保護地域を維持していくかが重要な課題である。