ESJ56 企画集会 T09-3
*伊谷行(高知大・教育),山田ちはる(高知大・黒潮圏)
漁業対象とならない生物も含めた潮下帯の生物群集の研究は、潮間帯のそれに比べて乏しく、また断片的である。今後予想される環境変化に対する生物群集の応答を研究するためには、現時点での生物群集を多少とも定量的に記述するベースラインスタディが必要である。そこで、潮下帯砂底の貝類相を明らかにし、その季節変化と水深による変化の有無を検証するために、2007年4月から2008年4月まで高知県土佐湾仁淀川河口沖にてドレッジによる調査を行った。採集には桁網(0.5 x 0.2 m, 目合い 4 mm)を用い、汀線より1〜3km沖合に位置する水深10・20・30mの等深線沿いに、それぞれ船速1ノットで10分間曳網し試料を得た。また、2008年4月には、土佐湾の物部川および四万十川河口沖の砂底でも同様の調査を行い、貝類相の地点間での相違の有無を検証した。
仁淀川河口沖の砂底からは33科60種の貝類が採集された。優占種の出現状況は、例えば、マツヤマワスレやゲンロクソデガイは通年採集され、水深20mに多く、水深30mからも採集されたが、水深10mからは採集されなかった。ハナガイは通年採集され、水深30mに多く、水深20mからも採集されたが、水深10mからは採集されなかった。一方、バカガイやミゾガイは水深10mに多く、春期〜夏期にのみ採集された。Bray-Curtis類似度を用いたクラスター解析およびMDSの結果からは、群集組成は水深ごとに異なり、春期〜夏期と秋期〜冬期での季節変化があることが明らかになった。土佐湾3地点の貝類群集は、水深10m では3地点とも類似していたが、水深20mと30mでは四万十川沖が他の2点より異なっていた。今後、砂浜潮下帯のベントス群集のモニタリングを行う際には、地点や水深とともに季節性も考慮した採集を行う必要がある。