ESJ56 企画集会 T12-1
東淳樹(岩手大・農)
現在,環境創造型水田農法として「冬期湛水水田」,あるいは「ふゆみずたんぼ」とよばれる水田農法が全国的に広がりを見せている.この水田農法は,本来ならば乾燥状態にある冬期間に水田内に水を張った状態にするもので,全国各地の128ha以上の水田で実施されている.ふゆみずたんぼには,アカガエル類の産卵場の提供,水鳥の採食地やねぐらの創出,雑草抑制効果が期待できるとされている.しかし,水田内の生物多様性の保全機能についての科学的な議論はほとんど行われていない.
そこで,ふゆみずたんぼは民間で広く謳われているほど,水田内の生物の多様性を高めていないのではないか?という作業仮説のもと,2006年から3年間にわたり,ふゆみずたんぼの生物多様性についての検証を試みた.調査地は,ふゆみずたんぼが広範囲に普及している,宮城県北部の伊豆沼・内沼周辺の圃場済み区画である伊豆沼三工区の圃場整備以降の作業履歴が同じで連続する3つの圃場とした.これらの圃場は,2006年から有機農法・冬期湛水の「ふゆみずたんぼ」,冬期非湛水・有機農法の「有機水田」,農薬・化学肥料使用の「慣行水田」の3つの管理方法に分けて作業されている.調査項目は水田内におけるメダカの成長と繁殖,二ホンアカガエルの産卵状況,動物プランクトン(ミジンコ類),水田土壌生物(水生ミミズ類・ユスリカ類幼虫),水生生物(水生昆虫・オタマジャクシなど)の種組成および個体数の把握とした.
その結果,ふゆみずたんぼは,カエル類の産卵場所としての機能や,水田土壌動物への好適環境の提供などの利点があるが,魚類の成長と繁殖,その他の分類群にとっては,むしろ不の影響を与える傾向が認められた.したがって,ふゆみずたんぼが水田内生物の多様性の維持に貢献するとは一概には言えないことが示された.