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ESJ56 企画集会 T12-2

生態系保全に配慮した水田におけるトンボ幼虫の生息状況

若杉晃介(農研機構・農村工学研究所)


平成19年度から施行された農地・水・環境保全向上対策は生物多様性の維持・向上に貢献すると期待されており、中でも冬鳥の保全に有効とされる冬期湛水水田や休耕田などを生態系保全に利用するビオトープ水田は近年、注目されている。農村の代表的な生物のひとつであるトンボ類の越冬形態は、アカネトンボ属等では卵、オツネントンボといったごく一部の種は成虫であるが、多くの種は幼虫(ヤゴ)で越冬するため、非灌漑期の落水(乾田化)は水田内で幼虫越冬する種の保全に与える影響が大きい。そこで、非灌漑期にも湛水管理する冬期湛水水田とビオトープ水田(通年湛水)を実施している新潟県阿賀野市沢口地区の現地圃場、及び一般的な水管理を行う農工研内の実験圃場におけるヤゴの生息状況から、トンボ保全に効果的な水管理について検討した。トンボ類は産卵時期や世代交代数によって、春種(SP)、夏種(SM)、秋種(AT)、多化性種(DV)の4つの生活環タイプに分類することができるが、冬期湛水水田では、年に2回世代交代するDV種の第2世代のみの採取であった。実験では、DV種の代表的な種であるアオモンイトトンボは落水後2週間程度で死滅してしまう。現行の冬期湛水水田はコンバイン収穫を目的とした落水期間(9〜11月)があるため、一般的な乾田と同様のタイプのヤゴしか生息していなかったと思われる。なお、ビオトープ水田はDV種以外にSP種やSM種が生息しており、水田地帯に広く生息するDV種の慣行水田や冬期湛水水田における第2世代の安定的な種の供給源となることが推測された。また、AT種のアカネトンボ属は異なる水深で管理した場合、乾田の浅い水深に多く生息していたことから、複数の水田管理を組み合わせることで、水田を利用するトンボ種全般を保全できる可能性が高いことが示唆された。


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