ESJ56 企画集会 T12-3
高田まゆら,高木俊,吉岡明良(東大院・農),岩渕成紀(NPO田んぼ),小林徹也(東北農研),鷲谷いづみ(東大院・農)
宮城県大崎市田尻では、ラムサール条約登録湿地である蕪栗沼及びその周辺水田を中心に多くの農家が冬期湛水、無農薬、無化学肥料などの環境保全型稲作に取り組んでいる。こうした水田は、慣行農法水田に比べさまざまな生物の多様性が増加するが、それと同時にイネ害虫や雑草による被害が深刻化するという負の側面も持ち合わせている。これらの被害による減収の多くは農家個人が負担していることから、今後も環境保全型稲作を維持・普及するためには、農薬などに頼らずに有害生物の被害を防除する技術が必要不可欠となる。
農薬に頼らないイネ害虫被害防除法の1つとして、害虫の土着天敵を利用することがあげられる。環境保全型水田で増加する生物の中には、土着天敵となりうるクモ類が含まれることから、こうした天敵の増加がイネ害虫の被害を抑制する効果をもたらすことが期待される。そこで本研究では、環境保全型水田におけるクモ類のイネ害虫被害抑制効果を検証するため、まず環境保全型水田44枚を対象とした野外パターン解析によりイネ害虫の密度やその被害の程度とクモ類密度との関係性を検証し、次にイネ害虫のDNAマーカーを用いたクモ類の胃内容分析により、クモ類によるイネ害虫の捕食数を推定した。またイネ害虫やクモ類は、水田だけでなく休耕田などのさまざまなランドスケープ要素を利用することから、環境保全型水田の空間的な配置や水田周辺に位置するランドスケープ要素がクモ類の害虫抑制効果に与える影響についても評価した。クモ類のイネ害虫捕食数は、各クモ種(グループ)による野外での害虫捕食頻度と室内実験から求めたイネ害虫消化速度、クモ類の水田内密度から推定した。