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ESJ56 企画集会 T18-2

移動過程と生活史の特性がメタ個体群存続性に影響する

熊谷直喜(千葉大・理学)


メタ個体群は、多数の局所個体群が低頻度の移出入によって弱く連結された集団である。そのため局所個体群は互いに異なる動態を示すが、低頻度ながら移出入があることで絶滅率低下等の相乗効果が生じる。つまり適正頻度の移出入がメタ個体群存続の要であり、そのメカニズムの解明には移動プロセスの理解が不可欠である。本講演では、海産無脊椎動物を対象とした研究例を紹介し、海洋に特徴的な移動プロセスがメタ個体群存続性に与える影響を示す。海洋における移動プロセスは海水の強い流動に大きく影響されるため、生活史を通じて受動的移動の重要性が高い。

研究対象としたヨコエビの一種はイソバナ(八放サンゴ類)に生息し、イソバナは浅海域のオーバーハングした岩礁に着生しパッチを形成する。野外調査・実験を行い、各局所個体群の個体数時空間的変動パターン;季節、生活史段階による、生存・繁殖率、移動プロセス・パターンの変化を調べた。さらに、これらのデータと人口学的確率性を組み込んだレズリー行列モデルのシミュレーション解析により以下を明らかにした。A)局所個体群間には通常は交流がなく独立した動態を示すが、嵐の到来時にはランダムかつ激しい流動による局時的移動で連結される。B)そのためメタ個体群空間動態が、生息場所パッチ間の直線距離に基づいた連結度に影響されない。しかし、そのような局時的移動のみでも、局所個体群の独立を仮定した場合と比べて明確に絶滅率を低下させる相乗効果が生じる。C)また移入の効果は移動個体の生活史段階に影響され、成熟個体(繁殖価が高い)が移動の主体を担うことで移入の効果が最大化される。これらの複合作用が局時的移動によるメタ個体群存続を成立させている。すなわち、移動プロセスと移動を担う個体の特性がメタ個体群存続性に強く影響することを通じ、そのメカニズムが生息環境の特徴に規定される可能性を示した。


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