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ESJ56 企画集会 T18-4

メタ個体群内における生活史形質の分化:自然選択 vs. ドリフト vs. ジーンフロー

小泉逸郎(NOAA)


近年、進化プロセスの研究は種間比較から同一種内の個体群間比較へとシフトしている。進化が起こるメカニズムを調べるためにはその初期の段階、つまり地域個体群間の分化を調べる必要があるからである。現在では、同一種内でも各個体群が異なる生活史形質をとることは周知の事実であり、自然選択による局所適応や種分化の可能性についても多くの種で実証されてきている。

しかしその一方で、62種2,500以上の生活史形質を調べた総説によれば、野外個体群における自然選択は非常に弱いという想像に反する結果も示されている。これは、適応分化の視点だけでは野外個体群の現実を説明しきれないことを明示している。野外個体群において選択圧が弱い、あるいは生活史形質が最適値をとっていない理由としては、他個体群からのジーンフロー(個体の移住)が局所適応を抑制している、という仮説が注目されている。つまりひとつの個体群を調べるだけでは不十分であり、複数の個体群を扱うメタ個体群的視点が必要になる。

また、これらの先駆的な研究においても考慮されていないのが、偶然の揺らぎによる個体群間の分化、ドリフト(遺伝的浮動)の影響である。小さな個体群ではドリフトの影響によって非適応的な分化を遂げている可能性が十分に考えられる。したがって、個体群間の分化、進化プロセスを理解するには、自然選択とジーンフロー、そしてドリフトの影響を包括的に考える必要がある。

本研究では、河川性サケ科魚類を対象に、徹底した野外調査、共通環境下飼育実験、DNA解析によりこの難題に取り組む。本講演では、小進化研究におけるメタ個体群アプローチの有効性を示し、最新の解析結果を報告する。この予備解析によれば、ある個体群では局所適応が示されたものの、メタ個体群全体においては最適な形質値を取っていないことが示唆された。これらがジーンフローやドリフトによるものであることを考察する。


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